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【校長ブログ】校長特別授業:おにぎり進化論

 オンライン授業の最中、今日510日(月曜日)、中学2年生向けに校長の特別授業「おにぎり進化論~おにぎりから考える地理学~」を行いました。その内容の一部を紹介しておきます。昨年も中学2年生対象に行った「トビウオを科学する」に続く、校長特別授業の第二弾。「中学3年卒業論文」に役立つものとなるよう、論理力と思考力を鍛えることを目的に授業を行いました。

 推定によれば、年間に90億個も食べられている日本の「おにぎり」。日本人の生活にとって切り離すことのできない食文化のひとつですが、ここ数年で「おにぎり」が進化しているのを皆さんご存知でしょうか?

 とは言っても、「おにぎり」なのか「おむすび」なのか、はたまた「握り飯」と呼ぶできなのでしょうか?『広辞苑』をみると、「おにぎり」の項には「」と説明があります。また、その形は三角形なのか、太鼓型か俵型か、はたまた、お伽話として知られる『おむすびころりん』の「おむすび」とは、どんな形なのでしょうか?悩みはつきません。この疑問に簡単に答えてくれるのが、同志社女子大学の吉見直人先生の「おむすびとおにぎりの違い」というURLhttps://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/2018-10-23-09-00#)です。

 この資料によれば、どうやら「おにぎり」の起源は平安時代に「屯食(とんじき)」と言われた携行食品が始まりのようで、これにその時代の女性言葉だった「お」を付けて「おにぎり」と呼ぶようになったとされています。一方で「おむすび」という名称は江戸時代中期以降に登場した言葉のようです。こうした歴史を保つ「おにぎり」という名称とその形状は、1980年代までは全国各地で違ったそうです。しかし、この20年間の間に「おにぎり」という名称と「三角形」が一気に全国に広がって行ったとされています。さて、その背後にあった社会変化とは何か?というのが、今回の授業の最初の質問でした。

 正解は、皆さんも日頃利用する「コンビニエンスストア」の普及ということになります。確かに、日本中に6万店もあるというコンビニエンスストアですが、どのお店に行っても、必ず出入り口に近いところに必ず「おにぎり」コーナーがあります。しかも、「おにぎり」パッケージは、ご飯と海苔が別々にラップで区分けされ、1→2→3と引っ張れば取り出すことができるものになっています。このパリパリ海苔のラップは、1970年代に長野県飯田市の人が考案した包み方で、1990年代前半に大阪府守口市の町工場で機械が考案され全国的に広がったそうです。セブンにレブンだけでも、「おにぎり」が年間に22億個も売れているそうですから、その影響は大きいでしょう。

 そして、この約5年前から「おにぎり」に記されている文字や写真が変わったというのです。では、「おにぎり」のパッケージには、どんなことが記されているでしょうか?そして、その変わった理由はなぜでしょうか?ひとつは、前述した1→2→3の三角形頂点の部分に新たに“OPEN”や“PULL”と英語が追記されたのです。また、「紅しゃけ」「紀州南高梅」などの文字だけでなく、中身がひと目で分かるように、ここでも“Griled Cured Red Salmon”、“Salty Pickled Plum”など英語表記が追加されました。その理由は、もちろん海外からの訪日外国人向けの対策であり、海外に店舗展開するための対策です。皆さんもどこかで“インバウンドInbound”という言葉を聞いたことがあるでしょう。最近の5年間(2015-2019年)に訪日外国人は約1.6倍に増え、今や4千万人に迫る勢いです。また、東アジアやヨーロッパでも、日本の「オニギリ」が出回るようになり、“riceball”というネーミングから「ONIGIRI(オニギリ)」が浸透するようになって来ました。

 もうひとつの変化は、ラベルに原材料だけでなく栄養分やカロリーなどを表示するようになりました。これは、日本国内の健康志向と大いに関係があります。さらには、「おにぎり」の購入層が2040歳代といった働き盛りの人だけでなく、コンビニエンスストアを利用する高齢者が増えたことも無縁ではありません。セブンイレブン

 では、こうした方々向けに少し小ぶりの「おにぎり」(100g80gへ)も店舗(該当する商圏)によっては販売しています。

 もう一方で、1個110円内外だった「おにぎり」にも高級化の流れがあり、鰻などの高級な食材を使ったものから、特定の産地にこだわったもの、さらにはお米の品種さえも限定したものもあり、1140円するものも少なくありません。こうして定番の「おにぎり」から、健康志向、小型化、高級化へと「おにぎり」も大きな変化を見せているのです。

 さらに興味を持った人は、コンビニエンスストアとおにぎりに関係について、店舗立地、顧客層の変化、おにぎりの生産から流通(サプライチェーンマネジメントSCM)の観点などから調べてみるのも良いでしょう。これだけで十分、大学卒業論文テーマとしても通用するでしょう。このような考え方こそが、来年度から高等学校で始まる「探究基礎」のスタートと言えるでしょう。

ref. 横浜市歴史博物館監修(2019)『おにぎり文化史 ~おにぎりはじめて物語』横浜市歴史博物館、河出書房新社、127ページ