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【校長ブログ】ボッチャとパラカヌーの魅力

 “WE HAVE WINGS”のスローガンの下、東京パラリンピックが世界163か国から約4400人のアスリートが集まって23競技で開催されました。どの競技をとっても体力、技術、芸術性を追求するアスリートの姿と熱意に圧倒された大会でした。今回のパラリンピックで特に印象的だったのは、ボッチャとカヌー競技でした。2つの競技における共通点は、だれでもほぼ同じ条件で競技に参加できる点にあります。どちらも競技としての歴史は浅く日本ではまだ競技人口が少ないものの、これを機会に参加が増えることが期待されています。

 また、現地で観戦・応援したい気持ちはもちろんですが、パラリンピックの放送では選手だけでなく同じ画面上にコーチやスタッフの姿が映し出されることが多く、一体となって挑むコーチやスタッフの様子までも見ることができ、競技にかける情熱に感動すると同時に、支援の在り方が参考になりました。

 さて、ボッチャは脳性まひなどの比較的重い運動機能障がいがある人のためにヨーロッパで生まれたスポーツで、6個のボールを順番に投げてジャックボールと呼ばれる白いボールにいかに近づけるかを競う競技です。ボールは投げても、転がしても、蹴ってもよく、投球フォームも自由で、「陸上のカーリング」と呼ばれたりもします。コロナ禍前の一昨年まで本校の近くにある東京都立多摩桜の丘学園の生徒たちとの年に1回程度交流会を行い、一緒に競技を経験する機会がありました。そこで毎春、入学直後に「仲間づくり」「学校行事ミニ体験」をねらいとする中学1年生オリエンテーション合宿に、ボッチャ1日体験を組み込みました。日本ボッチャ協会の協力のもと、本来のルールとは違いますが学年全員を4人1チームとして対戦しました。これまでに経験した生徒は少なかったですが、だれでもすぐに参加できること、技術・体力よりも集中力を発揮しながら、大いに楽しむことができました。

 東京パラリンピックでは、個人とペアと団体の3種目がありましたが、個人BC2(運動機能)決勝で杉村英孝選手が金メダルを獲得したことは、皆さんもご存知だと思います。対戦相手のワッチャラポン・ボンサー選手との息を呑むような緊張感あふれる試合の様子、試合後のお互いに相手を称え合う姿は格別でした。

 一方、カヌー競技は19世紀頃イギリスで始まり、1936年の第11回ベルリン大会で正式種目としてオリンピックにされ、今回の東京オリンピックでは16種のカヌー競技が行われました。パラリンピックでは前回のリオデジャネイロ大会から正式種目となった新しい競技で、艇とパドルの異なるカヤックKayakとヴァーVa’aのスプリント競技2種目が採用されています。パラカヌーはいずれも200mの直線コースでタイムと着順を競うもので、カヤックは水をとらえる扇状のブレードが両側についているパドルを使い、漕ぎ手は艇の左右を交互に漕いで進む競技です。一方、ヴァーでは片方にしかブレードがついておらず、艇の片方にアウトリガーという浮きがついた船体の一方だけを漕いで進みます。

 パラカヌーは下半身や体幹の障がいのある選手が参加する競技で、障がいの程度によりL1L3まで3つのクラスに分かれます。ルールの範囲内でカヌーの座席部分やコックピット内部の改造をすることが認められており、一番の魅力は「水上のF1」と形容されるスピード感と華麗なパドルさばきです。レースでは微妙な選手同士の駆け引きがあります。なかでも私が感じる最大の魅力は、アスリート個人の競技に掛けた思いであって結果のメダルの色ではありません。確かにメダルに喜びは感じますが、選手にとってそれは一つの記念品に過ぎません。ましてや選手一人ひとりの結果であって国ごとのメダル数なんて意味がないのです。

 パラカヌーではメダルは獲得できませんでしたが、前回のパラカヌーから出場している瀬立モニカ選手親子の取り組む姿勢です。モニカさんは高校1年生の「体育」の授業での事故がもとで「体幹機能障害」をわずらいながらも、持ち前の明るさと向上心で乗り超えてきた方です。母親のもと子さんも、「障がいが私たちを選んだに違いない。私にいろいろ求められてるんだ」と、親子でチャレンジしてきた結果だと語っています。突然の体の変化に最初こそ障がい者としての視線が気になったと告白していますが、新たなパラカヌーに挑戦することで自信を取り戻したと語っています。

 何もスポーツでなくても、絵画でも何でもいいのです。うまくいったら、次は今までできなかったことにまたチャレンジする。こうして一つ上を目指し、一つ一つ階段を登っていくことに意味があるのです。ぜひ皆さんのやる気とチャレンジ精神に火をつけてください。

 かつて車椅子を押す私に、「もっと優しく!」と言った今は亡き父親の言葉が痛い。