【校長ブログ】夏の課題 「戦争に関する読書」
昨年も紹介しましたが、教員になって以来、毎年、自らの夏の課題にしている「戦争に関する読書」。
今年は、1月に亡くなった尊敬すべきジャーナリスト半藤一利さんが関わった作品;半藤 一利・加藤 陽子・保阪 正康(2021)『太平洋戦争への道1931-194』NHK出版新書232ページを選びました。本書は、2017年の「終戦の日」に合わせてNHKラジオ放送で放送された鼎談(ていだん)を元に、保阪さんが追記・再録したものです。
イギリスの歴史学者で外交官だったエドワード H. カー Edward Hallett Carr(1892-1982)さんは、「歴史とは、歴史家と事実との相互作用の不断の過程であり、現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話である。」と語っています。それゆえ事実はひとつであっても、その捉え方や解釈はさまざまであり、それは歴史観、歴史解釈と呼ばれます。特に、「戦争」という史実においては、勝者と敗者という結果が生じ、往々にして二項対立的な考え方があり、まったく相反する捉え方や解釈をされることが見られます。しかし、ここで忘れてはならないのは、近代戦争という無差別な攻撃においては、一般の庶民が瞬時にして当事者に巻き込まれてしまう状況が生まれること、それ以上にマスコミや教育などが政府や軍部の一方的な宣伝機関となって大衆を巻き込む行為が見られたことを、猛省すべきです。
本書では、1931年の満州事変以降の日本が太平洋戦争に突入していく過程を、当時の国際情勢を踏まえ、日本の軍内部における意見の対立や変容を引用しながら、いわば人間ドラマとして浮かび上がらせています。歴史教科書では描かれない歴史の舞台裏を、時代を生き抜いた方へのインタビューや取材を通じて、臨場感あふれる言葉で紡いでいます。こうした手法は、正に社会科学のフィールドワークと同じであり、私達にとって「学び」の原点と言えるでしょう。6つの各章の末尾には、放送にはなかった保阪 正康さんの「解説」が挿入されており、読み物として価値を高めています。そして、最終章では「戦争までの歩みから、私たちが学ぶべき教訓」が、それぞれの立場と体験から提案されています。その中で、加藤さんは「戦争は暗い顔で近づいてはこない」とし、保阪さんは「命令一つで命を奪った軍事指導者」、そして最後に半藤さんは「しっかりと勉強しよう」と訴えています。3人の言葉は違いますが、冒頭に掲げたE.H.カーさんの名言に倣うなら、わずか80年前に始まった先の戦争について、昭和史を「最良の教師」として学ぶことの大切を教えてくれる一冊です。
今年は、『平和の祭典』東京オリンピック2020開催期間中に、広島、長崎の原爆忌を迎えます。世界に向けて、日本が平和について発信する絶好の機会です。一時でも構いません、戦争と平和について考えてみましょう。
参考図書
- H.カー:清水 幾太郎訳(1962)『歴史とは何か』岩波新書, 252 ページ.
- 猪瀬 直樹(2010)『昭和16年夏の敗戦』中公文庫,283ページ.
- 水島 久光(2020)『戦争をいかに語り継ぐか ~「映像」と「証言」から考える戦後史~』NHKブックス, 286ページ.
- スヴェトラーナ=アレクシェーヴィッチ:三浦みどり訳(2016)『戦争は女の顔をしていない』岩波現代文庫, 498ページ. カドカワコミックスより小梅 けいと(2020)作のコミック版vol.1,vol.2も刊行中.
- 伊藤 絵里子(2021)『静六の戦争 ~ある従軍記者の軌跡~』毎日新聞出版, 208ページ.