【校長ブログ】3本指の意味
多くの難問と紆余曲折を経て、いよいよ『平和の祭典』、2020東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。多くの選手や役員、大会関係者たちが世界各国から東京に集い、今日から一部の競技で予選が始まります。
オリンピック・パラリンピック開催もあって、多くの人々がグローバル社会の到来を謳い、英語を中心とした新しい語学教育の取り組みも多くの学校で話題になりました。しかし、私達を取り巻く現状に目をやれば、グローバル社会の到来と反するような出来事がいくつも起きています。たとえば、サッカー・ワールドカップ(W杯)予選のため来日していたミャンマー代表のピエリヤンアウン選手が、先月16日夜に帰国を拒否し、日本政府に保護を求めるという出来事がありました。また、日本に留学して日本語を学び、祖国で語学学校を開くことを夢見ていたスリランカ人の女性が長期に及ぶ名古屋出入国在留管理局の収容の果てに、施設内にて病気で亡くなるという痛ましい事件も起きています。加えて、コロナ禍という閉塞状況は、私達に大きな試練を与え、多くの学生達が留学を諦めざるを得ないような状況が続いています。
さて、ピエリヤンアウンさんは、日本対ミャンマーの試合に先立つ国歌斉唱のときに「3本指」を掲げて国軍への抵抗を示す行為をしており、「帰ったら自分の命と安全に危険がある」として搭乗する直前の関西空港で保護を申請したのでした。
指で示すポーズといえば、すぐに写真撮影のときによくする仕草、人さし指と中指でつくる「ピースサイン」が日本では有名です。「親愛の情を示す」こととして、広く知られています。また、親指を立てる「サムズアップ」と呼ばれ、仕事の成功や満足を表していますが、最近ではSNS上で「いいね!」を意味するものとして使われていることは、皆さんのご存知でしょう。
では、3本指を立てる仕草にはどんな意味があるのでしょうか。これは、もともとアメリカのアクション映画『ハンガーゲームThe Hunger Games』(2008年)の中で、ジェニファー=ローレンス扮する16歳の少女カットニスが出身地区固有の習慣として、3本指が「感謝や敬意、愛する人への別れを表すもの」として用いられたことが始まりです。映画の中では、仮想の独裁国家に対する民衆の抵抗と結束を表す反逆行為として、このサインを中継カメラに向かってしたことから、いつしか抵抗のサインとして民衆の間に広がっていったこととして描かれています。現在、使われている「3本指」には、「民主主義、連帯、選挙」などの意味があるとされ、国際的な支援を求め続けているアジアの人の間で広く使われています。
一方、ミャンマー国内では、クーデター後の混乱が続き、医療機関も十分に機能していないため、新型コロナウイルス感染者への対応が十分に行き届かず、最大都市のヤンゴンでも医療用酸素の不足が深刻になっている、と深刻な状況が伝えられています。ヨーロッパを中心に国際社会は、軍事政権への経済制裁を強めていますが、人々の健康と生命をどのようにすれば守ることができるのでしょうか。
ジレンマの中、欧米諸国とは異なりミャンマーと独自の関係を持つ日本だからこそできる、支援の道を探る必要があるのではないでしょうか。この季節だからこそ、教科書での学びを越え、生徒たちと共に「民主主義」と「平和」の意味を考えてみたいと思います。