【校長ブログ】甘くて苦いパイナップルの話
「パイナポー」で一躍有名になったパイナップルの話題。
スーパーの店先では、一年を通じてスウィーティオでお馴染みのフィリピン産のパイナップルが大部分を占めていますが、今年はフィリピン産を押しやって台湾産パイナップルが広い場所を占めています。2019年の農水省農産物輸入統計によれば、日本の生鮮パイナップル輸入は、その9割がフィリピン産で台湾産はわずか0.6%に過ぎません。それが…。
例年なら台湾産パイナップルの97%、約4万トンが中国向けに輸出されます。しかし、今年2月末に中国政府は「害虫(有害生物)検出」したことを理由に、突如3月1日から輸入を停止する措置に踏み切りました。その背後には、両国の政治的な駆け引きがあると言われ、どちらも正当性を主張しています。そこで困ったのは3月から7月が収穫期の行き場を失ったパイナップルです。親台派を中心に、シンガポール、オーストラリア、アメリカ合衆国、カナダなど16か国が支援を表明し、日本でもその輸入量が対前年比1.6倍に増えています。こうした台湾産パイナップルは、一部で「自由パイナップル」とも呼ばれています。甘いパイナップルも政治色を帯び、苦くならないようにしたいものです。
台湾ではパイナップルのことを「鳳梨(fènglí)」、中国では「菠萝(bōluó)」と言い、島の中部や南部で多く栽培されています。これまで長年にわたって品種改良が進められてきたため、種類が豊富で現在では20種類ほどの品種があります。在来種で酸味が強く、繊維質が粗い「土鳳梨」、果肉がミルクのように白い「牛奶鳳梨」、独特な香りをもつ「香水鳳梨」、甘味の強い「甜蜜蜜」、スイカのように巨大な「西瓜鳳梨」などがあります。なかでも人気・評価ともにもっとも高いのが、「金鑽鳳梨」と呼ばれる品種です。濃厚な甘さを持ち、繊維質が少なく、芯まで柔らかいのが特徴です。
さて、翻って世界のパイナップル生産(2019)を調べてみると、第1位は圧倒的に中米のコスタリカで、その後にフィリピン、ブラジルと続きにます。ヨーロッパでは”pine apple”という言葉より、”ananas(アナナス)”という呼び名の方が一般的です。”ananas”という言葉は、原産地であるブラジル中央部にある低湿地マトグロッソ地方に住む先住民:トゥピ族の”nanas(ナナス)”という名が起原だとされており、それがヨーロッパに伝わったのだそうです。ただ、学生時代にポルトガル語を学んだ時、ガーナ産の大きなものを”ananas“と言い、ブラジル産を”abacaxi(アバカシー)“と教わりました。現在、ブラジルではパイナップルを”abacaxi”と呼ぶとされており、”nanas”はどこへ…。話はややこしくなっています。
また、この温暖な気候を好むパイナップルは、沖縄でも主に5種類が生産されています。とは言っても、その栽培地は限られており、この度、世界自然遺産として指定された(7月の予定)山原(やんばる)と呼ばれる沖縄本島の北部と、石垣島・西表島の八重山地域でしか作られていません。それは、パイナップルが酸性土壌を好むからで、低地を多く占める隆起サンゴ礁でできたアルカリ性土壌の土地は適していないからです。かつて高校教科書の執筆者だった時、2つの分布図を用いて土壌と農作物栽培の関係を考えるという演習課題として取り上げたことがあります。
ところで、かつて高校の定期考査で「パイナップルは草(草本)ですか、樹木(木本)ですか?実っている様子が分かるように描きなさい」という問題を出したことがあります。さて、皆さんは正しく描くことができますか?因みにパイナップルを食べ終わった後、ヘタ(上部の葉がついている茎の部分)を切り取って土に植えて(または水耕)おくと、根が生えてきます。というのもパイナップルは自家不和合性と呼ばれ、自ら種子を作ることが難しい植物で、すべてがクローンなのです。気まぐれで、たまに実の中にゴマ粒大の種子がありますが、基本的には種子で増えること稀です。冬でも気温20℃以上を保つことができる日当たりの良い場所なら、日本でも育てることもそんなに難しいことではありません。ただ、実がなるまでには数年かかりますが…。
このようにパイナップルだけでも多くのことを知ることができ、まだまだ多くの謎があります。学習した後は、添付のファイルにあるよう美味しいケーキにして戴きました。