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【校長ブログ】カラスとハトの悲しいお話

 とどまるところを知らないCOVID-19感染症拡大と医療体制の逼迫により年明けからの緊急事態も延長され、本校でもこれまでの対応を引き続き継続しています。同時にこの余波は、人間生活だけでなく自然界にも大きな影響を与えています。

 例えば、この1年間、経済活動が大きく制約された結果、ニホンザルやイノシシ、ツキノワグマなど多くの野生動物が都市周辺などに出没するようになったというのです。

 本来、イノシシは昼行性で、人間と同様に太陽の出ている時間帯を生活時間にしている動物です。しかし、とても臆病な動物ゆえに、次第に人間に姿を見ない夜に行動様式を変えていたのです。外出自粛の中、昼間でも人の姿が見えなくなったため、日中でも姿を見せるようになりました。ただ、現在のイノシシは山奥に住む生き物ですが、元来は平地の生き物でした。江戸時代の文献などでは、さほど山深くない平地に住んでいるイノシシを狩る記述があったりします。人間がどんどん生息域を拡げ、山の方へと進出するのに合わせてイノシシもじりじりと山へ生息域を移していったのです。さらには、イノシシの行動範囲は、餌など生息地域の資源量とその分布によって大きく変化すると言われます。最近の研究では、イノシシは決まった縄張りを持たず、通常は2㎞の範囲の中で毎日あちこちの地面を掘り返してエサを探す暮らしをしていることがわかっています。今回の外出自粛で、人間の生活範囲が狭まり、逆にイノシシは時代を遡るかのように、その行動範囲が拡大し、人里まで及ぶようになったとも考えられています。

 また、繁華街などでは自粛によるレストランや食料品店などから出される残飯が少なくなった結果、カラスの餌が大きく減少してしまいました。そのため、餌に困ったカラスたちが新たな食餌としてハトを襲うようになったという報告が相次ぎました。そもそもカラスは雑食性で、小鳥やネズミ、木の実などを餌にしていました。しかし、高度経済成長以降、都市周辺に開発が進んだことや人口増加で生ゴミが増えたこと、ゴミ収集方式の変化によって、カラスやイタチなどの野生動物が都市生活に適応するようになったのです。

 ところで日本には生物的な用語での「カラス」はいなのです。というのは「カラス」ではなく、「ガラス」だからです。日本を代表する「ガラス」はハシブトガラスとハシボソガラスという二種類です。このうち都会で多く見られるのはハシブトガラスです。ハシブトガラスは人間を警戒して嫌うため、本来は人手の多い商店街など苦手なはずでした。しかし、決まった日の朝に生ゴミが集められることを学習しハシブトガラスの一部は、警戒しながらも容易に餌が手に入る道を選択し、都会にとどまるようになったのです。

 一方、ハトにはドバトとキジバトの二種類がおり、樹木に巣をつくることの多いキジバトは街路樹に巣をつくるようになりました。また、都会には飼育用だった外来種のハトが野生化したカワラバト(通称ドバト)も多く、都心部ではハシブトガラスとキジバト、カワラバトが共存するようになったと言われています。結果として、餌の減少に対応するため、ハシブトガラスが新たな餌としてキジバト、カワラバトを襲撃するようになったというのです。

 このようなカラスとハトとの関係で言えば、ハトは平和のシンボルである反面、エドガー・アラン・ポーの小説『大鴉』に登場するようにあまり良いイメージで捉えられません。ご存知の方も多いでしょうが、古くは『旧約聖書』のノアの方舟伝説にカラスとハトが出てきます。ノアは47日目に陸地を探すためにまずカラスを放ちましたが、まだ水が乾く前であったためカラスはすぐに戻ってきました。次にハトを放ったところ、オリーブの葉をくわえて戻り、これによりノアは水が引き始めたことを知ったというのです。

 いずれにしても人間の行動が、イノシシ、カラス、ハトを始め自然界の生き物に少なからぬストレスを与えていることは事実です。コロナ禍を契機とした「新しい生活様式」も、SDGsの中で捕らえ直す必要があるのかも知れません。

ef. 柴田 佳秀、田沢 利枝子(2006)『わたしのカラス研究(やさしい科学)』さ・え・ら書房、72ページ。

杉田 昭栄(2018)『カラス学のすすめ』緑書房、341ページ。