【校長ブログ】ジョージア人の葡萄愛
ぶどうの主産地である山梨県内の観光農園でも、そろそろぶどう狩りの終えんを迎えたところでしょう。コロナ禍の今年は、客の入りも少なく経営は大変だったと想像されます。中には高級ぶどう、シャインマスカット狩りを行った農園もあるや聞いています。2020年ワインの新酒も解禁されたばかり、ジョージアの話に入る前にぶどうの由来について触れておきたいと思います。
ぶどうは漢字では葡萄と書きますが、古代中国で使われていた文字をそのまま日本に輸入したもので、ぶどうの起源地は現在のウズベキスタンからイランにかけての地域と想定されています。日本へのぶどうの伝播は鎌倉時代の初めで、現在の山梨県勝沼と伝えられています。昨年まで社会科見学で訪れていた柏尾山大善寺がその場所と言われ、行基が薬草として栽培したのが始まりとされ、ぶどうを手にした薬師如来が本尊(国宝)となっています。ここは民宿も営んでおられ、私が大学院生時代からゼミ合宿や研修旅行でお世話になっていたお寺です。
さて、話はジョージアに戻って、ジョージア人の葡萄愛について話をしましょう。ジョージアでは「国花」をぶどうに定めるほど、ぶどうに対する思い入れの強い国です。ぶどうはその実はもちろんのこと、種子から葉や茎まで捨てることなくすべてを利用します。
私がグルジア(ジョージア)語を学んでいるとき、先生が不思議なお菓子を持ってきました。その名も下を噛みそうな「チュルチュヘラჩურჩხელა」という日本には類似品のない食べ物でした。主原料は、ぶどう果汁、小麦粉、ナッツ類で、それをソーセージのように細長くまとめて糸で吊るして乾燥させたもので、チューペットのような形をしているお菓子です。ジョージアに行くと、町中の売店だけでなく、幹線道路沿いで露天の土産物屋に混じってチュルチュヘラの売店も軒を連ねています(写真1、2)。
日本ではまだまだジョージアワインの銘柄や存在は有名ではありませんが、さすがにワイン発祥の地と言われるだけあって、カヘティ地方ではワインをワイナリーもたくさんあります。ワインを自家製造している農家も数多くあり、とくにカヘティ地方へは首都トビリシから南南東へ車で2時間弱、黒海とカスピ海を繋ぐカフカス(コーカサス)地方の中央部が有名です。そうした中の一軒に、私たちも民泊させてもらいました。おばあさん一人で生活している家で、主寝室以外の4つある部屋に泊めていただき、正に手料理と自家製ワインでのもてなしを受けました。この家でも、地下に畳1枚もある大きな土器のワイン樽が埋められており、この中で醸造・貯蔵しているとのことでした。これをクヴェヴリ製法といい、2013年にはユネスコの世界無形文化財に登録されています(写真3、4)。
また、2019年末に日本で初公開(岩波ホール)されたエルダル=シェンゲラヤ監督の映画『葡萄畑に帰ろう』では、長い間ジョージアの人々が守り続けてきた葡萄畑を舞台に、権力構造を批判的描いた作品が公開されました。このようにジョージア、何かにつけてぶどうに絡めた話題をするほど、ジョージアの人々はぶどうに対する愛が深いのでしょう。さてさて、わが国の権力構造はいかに…。