【校長ブログ】タグボート
東京湾に入り口に浮かぶレインボーブリッジの姿は、その夜景は格段に美しいものですが、この架下の高さ制限でこれまで入港できない大型船がありました。そこで、2020東京オリンピック・パラリンピックを機に、お台場(江東区青海二丁目地先)に大型のクルーズ船が発着できる新しい桟橋;東京国際クルーズターミナルが完成し、お披露目がありました。ただ、来月10日の開業するこの桟橋もコロナ禍のため、当分の間は利用する船がないとのこと寂しい限りです。
しかし、前号「パイロットとは…」で紹介したように大型船の航行する東京湾では、多くのタグボートtugboatが日々、活躍しており、新しい桟橋で働くことを待ち望んでいます。タグボートは、港湾内や水路などの狭いエリアで小さな自由に動きができない大型船をロープで牽引したり、船首で押したりして誘導・補助し、安全に離着岸、航行できるようにサポートする役割を担っています。日本語では「曳舟(ひきふね、えいせん)」「押船(おしふね)」などと訳されます。タグボートの船体には、直接的な接触と衝撃防止のため曳航する船との間に、古いタイヤや樹脂などの緩衝材が設けられており、見た目にはあまり格好良くありませんが、とても重要な役割をしています。
小さな体のタグボートが大きな船を動かす姿は多くの絵本でも取り上げられていますが、その活躍の秘密は、大きな牽引力と小回りの効く推進器にあります。長さ30メートル、幅10メートル、300トン足らずの小さな船体ながら、その10数倍以上もある大型船動かすため、せいぜい自家用車の数倍くらいの小さな船体ながら、車の10倍以上4000馬力のエンジンが搭載されています。また、360度回転することができるよう1つの船体に2つのスクリューがついています。これらを使って、タグボートは大型船を数センチメートル単位で動かすのです。私が見たタグボートは、船体の周囲にはジェット機の古タイヤを再利用して緩衝材としていました。また、東京湾など通行量の多い海域では、タグボートとは別にエスコートボートという船もあって、タグボートが作業する間、それを警戒し、他船との衝突を防いだり、消化作業をしたりする機能を持っている船もあります。
四方を海に囲まれ、多くの物資流通を海外に依存している日本ですから、当然、その数は多く、全国に大小1000あまりの港湾が存在します(国土交通省港湾資料による)。その規模を、入港する船舶の数と総トン数で比較した場合、ランキングはまったく違ったものになります。それは、国内船に小さな船舶があまりにも多いからで、外国船や大量輸送できる大きな船舶の受け入れ可能な港湾が限られているからです。そのため、タグボートを必要とする港も限られおり、タグボートを保有する曳船会社は全国に80社足らずしかありません*。その反面、海上輸送量は年々、右肩上がりの増加傾向にあります。それは、日本がかかえる経済構造の縮図とも言えるでしょう。しかも、歴史的経緯から港湾ごとに事情が異なる日本の曳船業界ですが、タグボートや曳船事業に関する研究もほとんどないのが現状なのです。
このように小さな船体のタグボートが力の限り大きな船を曳航する姿は、私にとって学校社会の中で活躍する小さなリーダーの姿と重なります。文化祭や合唱コンクールなど、少数精鋭の企画チームが考えや発想の異なる仲間を一つに束ねて行くことに、頼もしさを感じますし、ここに大きな成長があります。こうした活動を通して「成功」という港まで導く、タグボートであってほしいと願っています。
*森 隆行(2007)日本の曳船事業の現状と課題「日本海運経済学会年報」第41号, pp.1-10
*日本沿岸曳船海運組合(2019) 「全海運所属組合の横顔」連載9回