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小さな学校の大きな挑戦

たまひじりのA知探Q 学びの玉手箱!
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聖ヶ丘ニュース
校長

【校長ブログ】カブトガニの涙

 本校では2学期期末考査の後の2週間に渡り、冬の特別講座として『A画探Qの冬』、レベル別のアドバンス講座・ベーシック講座、補講、高校3年生対象大学受験考査などを実施し、状況を判断して少し早めに本日、終業式を迎えました。皆さんには、COVID-19感染症の中、戸惑いや不安を始め多くの負担を掛けたことと思いますが、保護者の皆様や多くの方々のご協力とご支援の下、ここまで無事に2020年を終えることができました。改めて御礼申し上げます。

 ところで、欧米を中心に各国でCIVID-19感染症ワクチンの接種が始まり、日本でも来年夏頃までには全国的に可能になりそうだとの報道がなされています。しかし視点を変えて、ワクチンの問題を考えてみると、また新しい問題が浮き彫りになってきます。

 唐突ですが、南アメリカ大陸南端に位置するフエゴ島に生息するコオバシギの仲間に、北アメリカ大陸を経て北極圏まで長距離の渡りをする鳥がいます。この鳥は、途中で長い渡りに備え高カロリーの栄養補給のため、アメリカ合衆国大西洋岸デラウェア湾の入り江でカブトガニの卵を食べるのです。コオバシギそのもののも絶滅危惧種になるほど減少している鳥ですが、その餌となるカブトガニも激減しているのです。

 その原因の一つに、製薬会社によるカブトガニの捕獲があげられています。カブトガニの血液に含まれる成分が、製造中の薬品やワクチンに細菌毒素が含まれてないかを調べる試薬「ライセート試薬(LAL)」に利用されています。大西洋沿岸州海洋漁業委員会(ASMFC)の報告によれば、2012年に生物医学産業界では611000匹以上のカブトガニが捕獲され、血液を採取されたことが報告されているそうです。採血後、再び海に放流するとも言われていますが、多くは途中で亡くなってしまうそうです。また、うなぎ(Anguilla rostrata) や巻き貝の餌としても捕獲されています。

 また、日本の問題で言えば、古生代の風貌をした『生きた化石』と言われるカブトガニは、干満の差が大きい瀬戸内海の干潟や北部九州の砂浜で観察することができます。日本のカブトガニは学名をTachypleus tridentatusLeach,189というもので、一時は絶滅が心配されましたが、岡山県笠岡市や大分県中津市、佐賀県伊万里市などでは、天然記念物として保護されています。笠戸市にはカブトガニ博物館もあり、カブトガニの飼育と展示のほか広く教育活動も行っています。因みに、カブトガニは生物学的にはクモの仲間だそうです。

 そんな貴重なカブトガニですが、実は私は小学校5年生の時に近くの漁師から「漁網にかかって邪魔になる」と言って、30cm以上(尾を含めると60cm以上)もある大きなカブトガニをもらい受けました。その時代には、まだ天然記念物にはなっていませんでしたし、老人からは食べることもできると聞きました。一瞬、タラバガニのように身の詰まったものを来しましたが、鎧(ヘルメット)のような殻を裏返して見ると、何と足しかなく身はほとんどありません。そこで、カブトガニの飼育を試みることにしました、風呂場に置いた段ボール箱に入れて飼っていましたが、夜中にキィキィと悲しい声を出すのです家族からは不評でした。魚釣りの餌になるゴカイを商店街の釣り具やから買い求めて与えていました。しかし、小遣いにも限度があり、2ヶ月程度でお手上げとなり、遊び場でもあった関門海峡で海に返してしましました。この間、カブトガニの脱皮、カブトガニの血液が青い色(正確には違います。乳白色の血液が酸化して青く見えるのです。)だということも、この時知りました。

 その後、中学生になった頃、瀬戸内海での干潟の埋め立てや水質汚濁が問題となり、カブトガニの生息地が急激に失われているという報道がなされるようになり、1975年に岡山県で天然記念物に指定されました。

 ともあれ、カブトガニの卵を餌とする渡り鳥、血液を採取する人間、干潟を埋め立てしてしまう人間など、いずれにしてもカブトガニ受難の日々は続くのです。COVID-19感染症ワクチンの開発は人類にとって喜ばしいことですが、私たちの安全と安心は間接的にカブトガニの犠牲の上に成り立っているとも言えるのです。すでに「ライセート試薬」の代用品は開発されているとも聞きますが、まだしばらくはカブトガニにとって不幸な日々は続くのです。

参考資料

1) カブトガニ博物館ホームページ https://www.city.kasaoka.okayama.jp/site/kabutogani/

2) 土谷 正和(2002)「和光純薬時報」 Vol.70 No.1, p.16.

3) ナショナル ジオグラフィックNews(2014.5.21)米東海岸でカブトガニの個体数調査,

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9257/